差分和分
過去ブログの転載です。
微分積分の離散バージョンに差分和分(さぶんわぶん)というのがあります。微分積分と比較しながら見てみましょう。
以後、で微分する微分演算子を(=)とします。これに対応して、で差分する差分演算子をとします。
【微分の定義】
【差分の定義】(厳密にはこれは前進差分というものになります)
差分は数列の階差数列を求める手続きと同じです。改めて見てみると、この操作は微分とよく似ていますね。
例えば次のような数列を考えます。
この階差数列は次のようになります。
このとき、これを次のように表します。
もとの数列を差分したものが階差数列ということになりますね。逆に、階差数列からもとの数列を導く手続きを和分といいます。
ただし、和分だと積分と同様、任意定数が後につきます。階差数列だけではもとの数列が特定できないのと同じですね。この定数を和分定数と呼び、和分演算子とします。
こうなるわけですね。
微分と差分の多項式での公式を提示します。それぞれ定義に従って計算すれば求められます。微分も差分も線型性があります。
【微分公式】
【差分公式】
微分だととするので第1項以外は全部0になりますが差分だと残ってしまうので高次の差分は複雑です。
微分公式をひっくり返すと積分公式が得られるように、
差分公式をひっくり返すことにより、和分公式を得ることができます。
【積分公式】
【和分公式】
はファイルハーバーの公式で得られるような複雑なものになるので、求めるのはやめておきます。やはり積分と対応していますが、余分な項が出ていますね。実はは、からまでの乗和になっています。
階差数列の問題を解く
ではこれらを用いて高校の階差数列の問題を解いてみましょう。次のような数列を考えます。*1
第1項、第2項、第3項、の順に1, 2, 9になるような数列です。それさえ満たしてあれば、正直別に後は何でも構いません。
この一般項の最も単純な形はになるので、これを導きます。
上の数列をとし、差分を求めます。とします。
は、となりますね。この一般項はとでも書けるとします。
ここまでは高校数学と同じです。ここで、和分公式を用いてを和分することによりを求めましょう。
… 線型性より
、 を用いて、
となり、和分が計算できました。
和分定数が残っていますが、これは初期条件を用いることにより消去できます。
従って、が求まりました。
なんとなく、微分方程式の解を求める手続きに似ていると思いませんか。
漸化式を解く
()を満たすを求めてみます。
まずは通常の解法からやってみましょう。
定数の「」が邪魔なので、両辺にを足して
とし、と置けば
となりますね。です。
これは等比数列ですから
となりますね。
従って、として求めることができます。
これを差分和分を用いて解くことを考えてみます。
から両辺を引けば
となるわけですが、
差分の定義からでしたね。ですからこれは
と表せることになります。
微分方程式の差分版のような形になっていますね。これが微分方程式だとすると、どうすれば解けるのか確認してみましょう。
微分方程式の場合
微分方程式の解を得ることを考えてみます。
移項すると
この斉次形の一般解を求めて、それにもとの微分方程式の特殊解を足せば一般解になります。
斉次形はなので、移項すると
微分してもとの関数に戻るものといえばですから、一般解は定数つけてとなりますね。
次に、の特殊解を得ます。右辺がなので、としてやれば、定数の微分はなので、となることから解になることが確認できます。
従ってとを足して、一般解はとして得られます。
差分方程式の場合
同様にして差分方程式を解いてみます。
移項するととなり、この斉次形の一般解に非斉次形の特殊解を足します。
斉次形はなので、移項すると
差分公式にというものがありました。つまりだととなるわけです。
微分だとが微分しても変わらない関数になりますが、差分の場合、が差分しても変わらない数列になります。
ですから、斉次形の一般解はとなるわけですね。次にの特殊解を求めます。
右辺がですから、ならとなって、解になりますね。この辺りは微分方程式の解き方と同じ理屈です。
従って一般解はとなるわけです。初期条件を入れれば、
よりとなるので、
という同じ解が得られたことが確認できました。
フィボナッチ数列の一般項なども類似の方法で求めることができます。漸化式は差分方程式に置き換えて考えるのも一つの手かもしれません。
*1:チルノ関数という関数の数列です^^;