輪 ~ 始めようゼロ除算
過去ブログの転載です。
ゼロ除算は禁じられています。小中学校で習いましたね。はできても、は出来ません。もダメです。
で割ることを許してしまうと、例えばこんなことが起きてしまいます。
とすると、両辺倍することでになり、左辺は約分してになり、右辺はよりになります。よって、です。これはおかしな結果ですね。こんなことが起こるので、で割ってはいけないことにしてあるのです。
で割ることをゼロ除算と呼び、やっちゃダメだよ、という認識が強まっていると思います。なんて分数を見ただけで、うわぁ……と思いますよね。でもホントには存在しないで片づけていいんでしょうか。
一方で、も存在しません。ルートの中にマイナスを入れるのは禁止です。ところが、これを存在すると仮定して、それをと決めるとどうでしょう。となることにより、とか言うことができます。虚数ですね。
虚数だって、元々答えが無かったものに答えを与えたものですから、実数だけで考えていたときには成り立っていた色々な法則が破綻します。
が代表例ですね。実数なら、
とすることができますが、ルートの中にマイナスを入れてしまうと
というおかしな結果になります。虚数を認めるとが成り立たないのです。
しかし、たとえそういったいくつかの破綻があっても、虚数は便利なので色んな場面で使われています。
そう考えるとどうでしょう。別に0で割ってもいいんじゃね??と思いませんか。
で割ることを認めれば、の答えを与えることができます。その代わり、例えばを約分してにするとか、にするとか、そういったことが成り立たなくなります。いくらなんでもを認めるわけにはいかないですからね。他の法則を書き換えてやれば、で割ることだって一応可能です。
何でやらないんでしょう?
簡単に言えば、書き変わる法則が多すぎる割に大して役立たないからだと思います。が成り立たないなんて、ありえなくないですか。
輪
実際に一応ゼロ除算を認めてみた体系というのがあります。輪(りん)という代数系です。輪の理論はWheel theoryと呼ばれています。そのまんまや。
足し算・引き算・掛け算だけが出来る代数系のことを環と言いますが、それに似たものです。足し算・引き算・掛け算・割り算・ゼロ除算を可能とした奇跡の代数系です。
輪の定義は次の通りです。
まず、輪で使われる数の集合をとします。正の数に限定しても、実数全体や複素数を使っても、どうでもいいです。
このの各々の数の間には「足し算」「掛け算」が分配法則を除いて完璧に定義されているとします。結合法則も成り立つし、交換法則も成り立ち、を足し引きしても、を掛けても変わらない、というものです。
ここで、割り算を次のように定義します。
「bの逆数」と掛け算するのです。これも普通ですね。
その上で、次のルールをすべて満たす代数系を輪と呼びます。
(9)は、にマイナスの値が入っているなら引き算を定義出来るよ、という意味です。
輪は一般にが成り立ちません。上のルールだととかとか残ってますものね。
がを除く普通の実数だとすれば、もちろんも成り立つし、上の法則がすべて成り立つのは明らかでしょう。
が成り立たないのは、例えばみたいな数です。ここではなどというものも数だよ、と認めているのです。これが、輪がゼロ除算を認めていると言われる理由です。
実際一般に次の性質が現れます。
引き算、割り算の結果が必ずしも単位元に戻らないことに注意です。ではどうなるのか、というと次のようになります。
これらの法則は、定義(1)~(9)から導くことの出来る定理です。それぞれの証明は以下の通りです。
… (6)より
… は単位元だから足すと消える
… 積は交換則が成り立つ
… (9)より
… (3)より
…
… (6)より
… (4)より
… (4)より
ということで、
の結果はではなく、
の結果はではなく、になるのですね。
もちろんが以外の普通の実数なら当然それぞれになりますが、とかならそうはならないぞ、ということになります。
は普通の数に入ってないので、と決めたように、♪とか決めてみましょう。はと表わせますが、を♪を使って表わせるでしょうか?
なんと、♪になります。実は分子が非実数ならいつも♪になるのです。
を以外の実数とし、とします。
となるので、になります。
上記は以外の任意の分子の場合で成り立つので、全部同じなのです。よって、♪になります。
また、♪は何乗しても♪のままです。
♪
♪
より、♪♪が成り立ちます。も♪なのですね。
でもは♪ではありません。です。
ですが、
となり、なので、逆数が一致しないのです。☆とでも決めておくと良いでしょう。
☆と♪は非常によく似た性質を持ちます。
♪♪☆
☆☆☆
♪♪
☆☆
♪♪(は以外の実数や虚数)
☆♪
☆☆♪
♪♪
☆☆
気付かれたかもわかりませんが、♪は「不能」を、☆は「不定」をそれぞれ数として表わすことに成功したものなのです。の結果は不能ですが、不能の結果は何乗しても不能のままだし、不定の結果は何乗しても不定のままです。
こういったものを扱うには便利ですね。