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和算の超高次方程式問題

日本は江戸時代、数学が娯楽として流行っていました。今でもそういった数学のコミュニティは確かにあるにはありますけど、現代で数学というと一般に難しい勉強のイメージが先行してしまい、マイナーな趣味だと思われがちに思います。数学は好きであろうと嫌いであろうと、受験科目にある以上やらなきゃいけないので、負のイメージを抱かれても仕方がないことだと思います。*1

日本独自で発達したこの日本式の数学は和算(わさん)といって、実は当時世界的に見てもものすごく発達していたようです。ベルヌーイよりも先にベルヌーイ数が発見されちゃったとかね^^; 微分行列式の概念なんかも、西洋より前に発見されていたようです。現代の日本の数学は西洋数学がベースになっているので、日本のものなのに、現代日本人にとって和算はあんまり有名ではないように感じます。

江戸後期になると、数学の問題を絵馬に書いて神社に奉納する算額(さんがく)の文化が根付きました。算額に書かれた問題を見た人が、その解法をまた算額として奉納する、ということもされていたようです。それだけ数学が一般人と近しいものだったのですね。時代が進むにつれて数学のレベルはどんどん上がっていき、現代でも無理のある設定の問題が多発することになります。

算額が現存している(復刻版だけど)神社の一つとして、前から気になっていた御香宮神社(京都)に行ってきました。

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実はお正月に初詣に行ってなかったので、実質初詣だったりします。

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絵馬が奉納されている絵馬堂です。ここに算額があるそうで。

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復刻版だからひときわ目立つのですが……↑あの明るいのが算額ですね。問題が書かれています。

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この算額では2問が出題されています。真ん中に正方形が3つ並んでいる記述が見えますが、とても難しくて巷で有名な問題です。まあ、何が書いてあるのかほとんどわからないわけですが……現代的に言うとこんな感じの問題です:

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3つの正方形、甲 乙 丙 がある。これらは次の条件を満たす。

  • 正方形は大きい順に、甲、乙、丙。
  • 3つの正方形の面積の和はa
  • 甲の一辺の長さの3乗根、乙の一辺の長さの5乗根、丙の一辺の長さの7乗根の和はb
  • 隣り合う正方形の辺の長さの差はそれぞれ等しい。

このとき、各辺の長さを求めよ。

問題自体は一見シンプルです。実際の算額では3乗根、5乗根、7乗根の記述がそれぞれ開立方、開四乗方、開六乗方、となってますが、実は当時でいう四乗は、今でいう5乗なのです。1つずれていたんですよ。

実際に現代数学を使って解いてみましょう。3乗根、5乗根、7乗根の扱いがめんどくさいので、甲の一辺の長さの3乗根をx、乙の一辺の長さの5乗根をy、丙の一辺の長さの7乗根をzとします。すると、上記の条件から次の連立方程式を作れます。

\displaystyle \begin{cases}x^{6}+y^{10}+z^{14}=a\\x+y+z=b\\x^{3}-y^{5}=y^{5}-z^{7}\\(x^{3} \gt y^{5} \gt z^{7})\end{cases}

3番目の式からx^{3}=2y^{5}-z^{7}が得られ、これを1番目の式に代入して整理すると次式が得られます。

 \displaystyle z^{7}=y^{5}-\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}

一方2番目の式を変形して \displaystyle x=b-y-zとしておき、両辺3乗すると

 \displaystyle x^{3}=\left\{(b-y)-z\right\}^{3}

となりますから、左辺はさっきのx^{3}=2y^{5}-z^{7}を代入できます。さらにz^{7}yを用いた式に出来るので、

 \displaystyle y^{5}+\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}=\left\{(b-y)-z\right\}^{3}

とすることが出来ます。これをzについて解くと、

 \displaystyle z=(b-y)-\sqrt[3]{y^{5}+\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}}

になります。両辺7乗すればz^{7}yの式に出来るので、

 \displaystyle y^{5}-\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}=\left\{ (b-y)-\sqrt[3]{y^{5}+\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}} \right\}^{7}

となります。これでyだけの式になりました。後はこれを整理してyに関する方程式として解いてやればOKです。鬼のような問題ですね。とりあえず、

 \displaystyle D=\frac{\sqrt{2a-6y^{10}}}{2}

と置いて様子を見て見ましょう。

 \displaystyle y^{5}-D=\left\{ (b-y)-\sqrt[3]{y^{5}+D} \right\}^{7} 

さらに \displaystyle w=-\sqrt[3]{y^{5}+D}  \displaystyle b-y=u \displaystyle y^{5}-D=vとでも置いて

 \displaystyle v=(u+w)^{7}

として展開して整理します。

 \displaystyle (21w^{3}u^{2}+21u^{5})w^{2}+(w^{6}+35w^{3}u^{3}+7u^{6})w+(7w^{6}u+35w^{3}u^{4}+u^{7}-v)=0

w^{3}とすれば3乗根が外れるので、wについて一旦解いてみて、wの3乗根を消去することを考えます。各係数を\alpha, \beta, \gammaと改めて

 \displaystyle \alpha w^{2} + \beta w + \gamma = 0 とすると

 \displaystyle w=\frac{-\beta \pm \sqrt{\beta^{2}-4\alpha \gamma}}{2\alpha}となります。これを両辺3乗してやれば、3乗根が外れますね。あとはルートを外すために適宜2乗をしていくだけです。

 \displaystyle \delta = \sqrt{\beta^{2}-4\alpha \gamma}と置いて、

 \displaystyle w^{3}=\left\{ \frac{-\beta \pm \delta}{2\alpha} \right\}^{3}

展開して \delta について解くと

 \displaystyle \delta=\frac{\beta^{3}+3\beta\delta^{2}+8\alpha^{3}w^{3}}{3\beta^{2}+\delta^{2}}

となり、これを両辺2乗すれば \deltaのルートが消去できます。

 \delta^{2}= \beta^{2}-4\alpha \gamma を代入して \alpha, \beta, \gammaだけの式にまとめ、それらはもともと w^{3},uの式だったので代入し、 w^{3}=-(y^{5}+D)を代入して、さいごDはルートを含んだ式だったのでDについて解いてやって両辺2乗することにより、yに関する整式が出来上がります。あとはそのyに関する方程式を解けば各辺の長さが求まるわけですね。

ごめん限界です。

これ以上やってないのでわかんないですけど、y70次方程式が出てくるそうで、どえらい長文方程式を解くことになるようです。ヤバイですね。

あんまり知らないけど、多変数連立方程式なので、それこそ最近なぜか妙な界隈で流行しているグレブナー基底でも使えばもっと楽に解けるのかもなぁ。わかんねーや。

この問題を解き、答えを書いて奉納されたという算額が、同じく京都の八坂神社にあったそうなのですが、絵馬堂が封鎖されてる噂を聞いて行くのを断念しました。まじかよ@_@

まあ、現物を見たところで読めないので意味わかんないですが……

実際、答えはこれ!!ってabに関する式が書いてあるわけではなく、こういう70次方程式を解けば解けるよっていう感じだそうなので、まあ、そういうことでしょうね。どっちみち5次方程式以上は一般に代数的に解けないので、代数的な式の提示は不可能です。

和算ではこのように、超高次方程式がしばしば登場します。現代でこそコンピュータがあるので解けなくはない時代にはなっていますが、当時は当然手計算ですからどこまでやっていたのか……衝撃的な問題で発微算法という書物の14問目が有名ですが、似たような感じで辺の長さを求めるために1458次方程式を解くことになる問題があるようです。笑っちゃうわ。はっは。

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帰りは比較的近くの温泉(伏見力の湯)に浸かってきました。楽しかったよ(´ω` )

なんで温泉の正面ではなく、後ろの駐車場の写真しか残ってないのか。謎ですね。

*1:でもそのおかげで、現代日本がすばらしい技術大国になってるのも事実です。