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解けた!ABC予想

ABC予想は、1985年に出された代数学の予想定理です。3つの数 A+B=Cに関する重要な定理なのですが、その証明は非常に難しいと言われており、これまでずっと予想のままでした。

その難しい問題を、京大教授の望月先生が解いてしまったのではないかと一時期世間を騒がせておりました。2012年に予想の証明をしたという論文が提出されたのです。その論文ではまったく新しい数学のツールが導入され、それを駆使した証明が記載されていたため、本当に正しいのかどうか数学者でもすぐに判断できないとして、その正しさの判断(査読といいます)に時間を要しておりました。

それがなんと、今日ですよ、今日。完全に正しいと判断されたらしいのです^^! これが数学の世界ではビックニュースなんですよ。これによってABC予想は予想ではなく、立派な定理に成り上がりました。

ABC予想

ABC予想について概要を説明します。概要だけなら、そんなに難しいものではありません。

まず、 A,B,Cの3つの正の整数を用意し、これは A+B=Cの関係にあるものとします。 A, B, Cは互いに素、すなわちこの等式はもうこれ以上約分(?)できないものとします。例えば、 4+6=10とあったら、両辺2で割れますから 2+3=5とします。

例えば A=95, B=289, C=384の場合を考えてみましょう。それぞれを素因数分解してみます。

A=19\times5
B=17^{2}
C=2^{7}\times3

この素因数分解で登場した素因数 19, 5, 17, 2, 3を、指数を無視してすべて掛け算します。これを Rとします。

 R = 19\times5\times17\times2\times3=9690

さて、この Rですが、 C=384と比べると明らかにでかいですよね。このように、普通は C\lt Rが成り立ちます。まあ、足し算したものより掛けたものの方が大きくなるイメージですよね。

ところが、反例がたまにあります。A=3,B=125,C=128の場合を見てみると、

 A=3
 B=5^{3}
 C=2^{7}

となり、素因数がもとの数と比べて小さいものばかりとなっています。このときのRを求めてみると、

R=3\times5\times2=30

となって、今度はC=128よりも小さくなります。このように、 C \gt Rとなってしまう反例は実は無数にあるので、単にそうなる頻度が低いだけであって反例とは言いがたいものとなっていますね。なんとかして R Cに勝つことは出来ないでしょうか。

そこで試しに、Rを2乗してみます。するとR^{2}=900となって、 Cよりも大きくなりました。こんな感じで、2乗してやったら Rの方が大きくなるようですね。もっといえば別に2乗までいかなくても、1.5乗とかでも Cを超えられそうです。

ABC予想は、次のような予想です。

ABC予想

 C \gt R^{1+\epsilon}(\epsilon \gt 0)を満たすようなA,B,Cのペアは高々有限個しか存在しない

 C Rの関係を考えていたときは、 C \gt Rとなる反例は無数にありました。ところが、 Rをちょっとでも累乗した(1.0001乗とかでも)ときの C R^{1+\epsilon}の関係を考えてみると、 C \gt R^{1+\epsilon}の反例はちょっとしかない(有限個)ということを主張しています。

さっきの例でいえば、2乗すれば明らかに Rの方が大きくなっていましたもんね。実際、2乗までしてやれば反例などなく、常に Rが勝つんじゃないかということも予想に含まれています。

ABC予想解決の恩恵

ABC予想は、概要はそんなに難解な数学を使っているわけでもないですが、いまいちそれがどうしてスゴイ予想なのか、よくわかりませんね。

実は、ABC予想が解けることによって、同時に解決する問題がとても多いのです。しかも、あの有名なフェルマーの最終定理も、ABC予想が解決すれば秒で解けるようになるのです。

フェルマーの最終定理は、フェルマーが出題してから360年間誰にも解けなかった超難問です。次のような定理でしたね。

フェルマーの最終定理

 x^{n}+y^{n}=z^{n}n \ge 3自然数)を満たす自然数 x,y,zの組み合わせは存在しない。

この証明問題自体は20年ほど前に解かれたのですが*1ABC予想の主張を使えば次のようにして解いちゃうことができます。

フェルマーの最終定理が偽と仮定する。 x^{n}+y^{n}=z^{n}の等式をABC予想における A+B=Cに見立て、 Rを求める。

 A=x^{n}
 B=y^{n}
 C=z^{n}

このとき R x,y,z素因数の積であるため、xyz以下の数となり、 R \le xyzが成り立つ。

ABC予想の主張により、C \lt R^{2}が常に成り立つので、

 C=z^{n} \lt R^{2} \le (xyz)^{2} \lt (zzz)^{2} = z^{6}
 z^{n} \lt z^{6}
 n \lt 6

となる。以上より、 nの候補は 3, 4, 5だけに限られる。ところが、 n=3の場合はオイラーが、 n=4の場合はフェルマー自身が、 n=5の場合はソフィ・ジェルマンらがそれぞれ成り立たないことをすでに証明しているので、すべての nの場合で成り立たず、命題は真となる。

こんな具合です。拍子抜けですね。

このように、ABC予想が解けたことによって、何だか知らないけれど解決しちゃった、という問題がたくさんあったのです。その中にはフェルマー=カタラン予想や、ブロカールの問題の一般化版などといった未解決問題もたくさんあります。今回ABC予想が解けてしまったので、そこから関連する問題はすべて解かれたことになります。

さらに、ABC予想を解く過程で用いられた新たな数学のツールの登場も革新的です。というか、実際にはそちらの方がより影響のあることなのかもしれませんね。そのツールがどういうものなのかは難しすぎて分からないのですが、今後様々な問題解決、新たな数学の理論構築などに役立つことは確かです(適当)。

 

今日はもうちょっと寝てるつもりだったのに、このニュースを聞いてびっくりして飛び起きちゃったよ。

*1:これはこれで、笑いあり涙ありの壮大ドラマです。オススメです。