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体論 ~四則演算の抽象化~

体論に関するさわりだけの紹介記事です。

数学では物事に対する抽象化がよく行われます。抽象的にすると、これまで別々に扱っていたものを一つにまとめて表すことができるので、何かと便利なわけです。

日常的な例でいえば、ラーメンもうどんも麺類ですよね。麺類は、ラーメンやうどんを抽象化した言葉です。「麺類は箸があれば食べられる」という法則は、ラーメンにもうどんにも当てはまるので、とりあえず箸を持っていけば食べられるだろうと言えるわけです(?)。*1

体論とは体(たい)を研究する分野のことです。では体とは何かというと、四則演算ができる構造を抽象化したもののことです。四則演算とは加減乗除(足し算、引き算、掛け算、割り算)のことですね。例えば「実数の加減乗除」は体です。四則演算は四則演算だろうと思われるかもしれないですが、別に一般的な足し算や掛け算を四則演算と言わなくてもいいですし、演算に使う対象が数字じゃなくてもいいわけです。体は、四則演算ってどういうものだろう、という考え方や性質だけを取り出した抽象的な概念になります。

なかなか四則演算に相当するような全く新しい演算を自分で発見するのは難しいですが、もしそういうものを見つけることが出来て、それが体だと言うことが出来たなら、体に当てはまる法則は、体なら当然すべて当てはまるので、それを当てはめることで考えやすくできるメリットがあります。

体は抽象的なものなので具体的なイメージがしにくいですが、「まあ、実数の四則演算とか」ぐらいに捉えても大丈夫だと思います。麺類とは何か、「まあラーメンとか」みたいなのと同じようなものです。

代数的構造の関係図

体は数の四則演算ができる構造のことですが、そのほかにも、数の演算ができる構造の呼び名は色々あります。

以下は、一般的な代数的構造の関係図です。集合の要素に二項演算を定義したかたまりを一つの代数的構造として扱っており、それにルールが加えられていくと、どんどん図の下の方へレベルアップしていくイメージです。体は一番下にありますね。それぞれ右側に赤文字で補足説明や具体例を入れています。

例えば「正の整数(1,2,3,…)の足し算」は、「半群」になります。正の整数同士を足せば正の整数になりますから、演算が閉じているのでマグマです。結合法則も満たすので、半群になります。ところが、単位元(足しても結果が変わらない数。足し算なら0のこと)は正の整数にはありませんから、その先へ進むことはできず、半群に留まります。

他の例として、「整数の足し算」はアーベル群、「整数の掛け算」はモノイド、「整数の足し算と掛け算」は整域、「有理数の足し算と掛け算」は体になります。確認してみてください。

また、「集合の要素」は数じゃなくてもいいので、例えば「カラーフィルム」にして、演算を「重ねる」としてやれば、この構造はモノイドになります。どの順番で重ねても同じ色になるから結合法則を満たしますし、単位元(重ねても色が変わらない色)として白を持ちます。重ねて元の色に戻るような色は無いので、逆元は無いですね(赤に青を重ねたら黒になるけど、黒に何を重ねても赤や青には戻らない)。

体論の応用

体になるためには色々と厳しい条件をクリアしていかないといけないので、体の具体例は加減乗除を除いてあんまり直感的なものが少ないです。ただ、それでも体だと分かれば四則演算の仲間として、これまで数学で扱われてきた色んな性質を活用することが出来るので、難しい問題を数学に置き換えて解決できるのです。

実際にかつての難問が体論によって解決した例があります。その中の一つにギリシャの三大作図問題があります。めもりのついていない定規とコンパスだけを使って作図するというルールで、こんな図作れるか??という問題です。

・同じ面積の円と正方形

・立方体とその2倍の体積の立方体

・角の三等分線

1パターン作図できればいいのではなく、どんな場合でも作図できるか、というのが条件です。作れるなら作り方をみせればいいのですが、作れないなら作れない証明が必要になります。2000年以上前に出題された問題でずっと解決出来なかったのですが、近代になってこの作図が体の構造を持つことが発見され、体論を用いてようやくどれも不可能であると証明されました。

定規とコンパスで引くことのできる線が体をなすのです。すなわち、定規とコンパスをうまく使うと、線同士で四則演算できるのです。平方根の計算もできます。

参考:https://core.ac.uk/download/pdf/292907898.pdf(1.3 作図題の代数)

イメージとしては、関数のグラフで表したときに直線は一次方程式、円は二次方程式でそれぞれ表されるので、それらの解として四則演算の結果や平方根の結果が現れるようなものです。

ということは、作図したい図形に現れる線が、四則演算と平方根によって導くことが出来るものなら作図可能、そうでないなら作図不可能ということになりますね。ところが、この3つの作図で現れるような線はどれも四則演算と平方根だけでは表すことができない*2ので、作図不可能と証明されることになりました。(例えば角の三等分線を引くためには三次方程式を解かなければならず、三次方程式を四則演算と平方根だけでは解けない)

作図問題の他にも、五次方程式の解の公式が存在しないことを証明するために体論が使われています。存在しないことを証明するという部分は、作図問題と似ていますね。もともと体論はその研究から考えられたもので、後から体系化されたものです。

体はこのように直接扱いにくいものを、なんとか体の形に落とし込むことで、数学の問題として表して解くことができる、そういうことをするための道具として使われています。実際はむしろ体そのものが研究されていて、その成果としてこのような具体的な問題が解けるという順番かもしれないですね。

*1:スパゲッティを箸で食べるのは難しいな

*2:体の集合の中に、答えになるような線が含まれない。